• 奇術探偵曾我佳城全集 秘の巻 戯の巻 泡坂 妻夫 ISBN:4062737604

このミス1位作が待望の文庫化(二冊に別れたが)
奇術師が数々の事件に関わっていく。
描写も物語にも過剰感がない。もちろん不足分などもない。
短編の中に謎・登場人物の魅力・心の動きを詰め込んでいる。
とにかく上品。
こんな短編が文庫二冊分ぎっちり詰まっている。なんて豪華なことだろう。

江戸もの短編。怪談風。
曾我佳城全集が「足を知る短編」ならば、こちらは「溢れる情感に呑まれる」短編。
宮部みゆきヒューマニズムは、現代ものよりも江戸舞台の方が生きるのかもしれないなぁと思う。
江戸の市井の人情味やまっすぐな人生観と共に、作者一流の残酷でおぞましい視点も健在。
怖い話。けれども、それだけではない。

「ポスト村上春樹の流れをくんでいる」らしい作者の短編集。
 一本目を見たときには、東野圭吾の短編のような整った感じを受けたので
村上春樹?」と訝しんだが、後半を読むにつれて納得。
ひょうひょうとした「僕」の語り口は、その手のものを書いたときの乙一っぽくもある。
これらの雰囲気を纏めて「ポスト村上春樹」というのかもしれない。
個人的には一本目の路線でミステリーを書き続けて欲しいのだけど。

小学校5・6年 の学習(学研の学習雑誌だ)に掲載された推理小説
非常勤講師が勤務先学校で事件に遭う。
子どもをやたら神格化せず過剰な期待を持たないクールな主人公だが、
けっして非情ではない。生徒にまっとうな倫理を説く、筋の通った大人だ。
子供だましな話ではないけれど、大人の観賞に堪えうる話かというと微妙だ。
紛れもなく少年少女用のミステリで、大人のままではなく、子どもの気分に戻って読む本だろう。
小学生雑誌の付録だった、わら半紙製本のミステリクイズを思い出す。

警察内部の確執ということで、J・エルロイの暗黒のLA四部作を連想した。
似ているが違う。
あれは刑事が主役でバイオレンスに満ちた「暗黒街」の話。派手だ。
こちらは事務畑の警官の話が中心になる。地味であり、すごく面白い。
隣の席の同僚・親戚の不審な行動を探るような卑近さがある。
それでいて警察組織の問題だから、常に犯罪の予感が漂っている。
探索役がずんずん真相に向かってに踏み込んでいっても不自然さはない設定。

同作者の「慟哭」を読んだときには、細かい話を書く人だなと思った。話の流れも文章も細かかったと思う。
今回は、大体においては、おおらかな流れで話が進む。遊覧船に乗っているような気分で事件を一周する。
でも題材は殺人。
海外有名ミステリの「毒入りチョコレート事件」をふまえているという。
未読なので読んでみたい。